奇妙で異様な言語空間が日本全体を覆い尽くしている。危険な腫れ物に一切触れぬが如く、まるで無きが如く、そのタブーを「見ざる、聞かざる、言わざる」としたバーチャル言語空間が、今、日本に現出している。
増税緊縮財政路線、TPP政策に見られるように、昨今のマスメディアの論調は、「大政翼賛会」の如く、新聞やテレビだけではなく、政界も、財界も労働界も官界も、轡を並べて一致した主張を続けている。新たな政治潮流と言われる大阪維新の会すら同じ主張である。これらの主張に共通するのは、米国が喜び、中国が喜び、韓国が喜ぶ主張であることだ。他国が喜ぶ政策は、自国の利益に適ったものとはなり難い。しかし、それに気づいた人は、一体、何人いるのか。
その禁忌のタブーとは何か。
それは「日本」である。
戦後日本ではなく、本来の「日本」である。
我が国は、終戦以来六十七年、今日まで「平和を愛する諸国民(アメリカ・中国・南北朝鮮・ロシア)の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」(日本国憲法前文)という非現実的な思想グローバリズム論理に縋りついてきたままだ。日米関係や国連中心主義、東アジア共同体といった思想のグローバリズムが、戦後保守や戦後左翼たちによって主張され続け、我が国の言語空間を独占して来たのである。その状居は変わっていない。いや、ますます、徹底化が進もうとしている。
結局、戦後日本人のほとんどが、日本国憲法前文の呪縛の本質、つまり、日米や日中、国連等でしか日本を考えられない思想的グローバリズムの呪縛から逃れられないでいる。恐るべきは、この「閉ざされた言語空間」内でしか世界を考えられないという「タブー」すら、意識、認識出来ぬほどに退行している現実である。
この「閉ざされた言語空間」では、発想出来ない視点がある。例えば、現在の米国にとって、北朝鮮が日本を核兵器で脅迫し、拉致被害者を人質に取って、金をせびり続けることは、理想的な状態だという視点である。北朝鮮の弾道ミサイルの発射事件で、日本中が大騒ぎとなり、日本が米国の核の傘と軍事力、外交力に頼り続け、基地を提供し、思いやり予算までプレゼントし、TPP問題で米国の言う事に従ってくれることは、現在の米国にとってまさに理想的状態なのである。また、尖閣問題で、日中間が緊張し、米国の軍事力に頼る状況も大変好ましい状況である。
中国にとっても同様である。北朝鮮暴走を抑え、核ミサイルを撃ち込んだりせぬよう、日本が中国の影響力を期待し、頼み込んでくる「朝貢国」的状況は、これまた理想的な状態である。
しかし、北朝鮮が小規模な核兵器を保持し、一、二発の弾道長距離ミサイルなどを持ち「何をしでかすか分からぬ」ように見える状況は、とりわけ、米国の東アジア戦略に取って、最も好ましい状態なのだ。北朝鮮に最も影響力を及ぼしているのは、実は米国である。一般には、中国と考えられているがそうではない。北朝鮮の核ミサイルは、日本だけではなく、中国に向けられる可能性があるものだ。つまり、かつてのキューバ危機がそうだったように、北朝鮮が米国との「友好関係」を築けば、中国と日本は目の前に、核ミサイルを突きつけられることになる。したがって、中国は、北朝鮮を自分の影響下に置くために、油や食料等を援助せざるを得ないのである。
これが現実政治であり、国際社会ではごく当たり前の外交的視点である。
新雑誌「言志」は、戦後日本の「閉ざされた言語空間」を解体し、解放する。
新雑誌「言志」は、どのメディアも果たせなかった「日本」を主語とした、自由な言語空間を創り出す。執筆は、老中青の世代バランスの取れた一流の執筆陣が担当するが、特筆したいのは、三十代四十代の、これからの日本の思想潮流を担うだろう執筆者たちを選りすぐった事である。「戦後日本」から「日本」へという、日本を主語とした言論潮流には欠かせない人材だからだ。
この言論潮流は、これまで戦後六十七年間が、果たせなかった「戦後日本」から「日本」への脱却を創り出すだろう。ハンチントンが「文明の衝突」で語ったように、世界の中で独自の文明を築き、世界最古の歴史と伝統の国「日本」が、本来の姿を取り戻し、復活する道を開く言論思想運動となるだろう。
雑誌名の「言志」は、江戸時代の儒学者佐藤一斎の「言志四録」から採った。言志四録は、西郷隆盛や佐久間象山・吉田松陰等に多大な影響を与え、明治維新の原動力となったと言われている。
「西郷南洲翁遺訓」には、次のような言葉がある。
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕抹に困るもの也。
此の仕抹に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり。」
新雑誌「言志」は、日本で最も「仕抹に困る」雑誌でありたいと願っている。
読者諸氏におかれては、どうか、この「始末に困る」雑誌「言志」を育てていただきたく、よろしくお願い申し上る次第である。
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